光の正体は「波」と「粒」
私たちの身の回りには、太陽の光や照明の光など、いろいろな光が存在します。
そんな光に関する研究が盛んに行われるようになったのは、17世紀のニュートンの時代からでした。
ニュートンは太陽の光をプリズムに通すと様々な色の光に分散されることから、太陽の白色光は様々な色の光が混合したものであることを発見しました。
また、光は物体によって遮られるとくっきりと影ができますが、もし光が波であれば、物体に遮られてもその物体の裏側に回り込む、回折という波特有の現象が起こるため、くっきりとした影は出来ないと考え、ニュートンは光は粒子の集まりであると主張しました。
一方、物理学者のホイヘンスは、光と光がお互いにぶつかっても何の影響もなく真っ直ぐ進んでいくことから、光は波動であると考えました。もし光が粒子であれば衝突して向きが変わるはずだと主張したのです。
しかし、万有引力などの発見によって一躍時の人となっていたニュートンの粒子説の方が主流となり、ホイヘンスの波動説はその後100年間埋もれることになりました。1805年、トーマス・ヤングは光が波特有の干渉を起こすことを実験(ヤングの干渉実験)によって示し、一気に波動説が優勢となったのです。
19世紀末には、私たちの目に見える光の現象の多くは「波動説」でうまく説明できるようになっていました。
しかしその一方で、やはり光を粒子と考えなければ理解できない現象も見つかってきました。そうした現象を解明するために、20世紀初頭にアインシュタイン(1879-1955)は、光の粒子である「光子(フォトン)」を提唱し、「光の粒子説」を復活させました。
そんな光は、「電磁波」とよばれる空間を伝わっていく「波」の一種であり、また人間の目ではとても見えない小さな「粒」でもあるのです。
つまり、光は「波(電磁波)」と「粒(光子)」という二つの性質(二重性)をもっているといえます。
波長によって異なる光の種類
私たちは光の無い所では何も見ることができません。
光源から放出された光が物体に当たって反射され、それが人間の目の視細胞を刺激することによって、私たちは物体の形や色を知覚することができます。光(電磁波)は、波の長さである「波長」の長さによって目に見える色が変化し、目に見える光と、見えない光が存在しています。
可視光線
私たち人間に目に見える光は「可視光線」とよばれます。
人間の目に光として感じる波長範囲の下限は360~400 nm、上限は760~830 nmです。一般的に、可視光線の波長は、nm(ナノメートル)単位で表されます(1 nm = 1×10-9 (0.000000001) m)。波長によって異なる色感覚を与え、紫(380-430 nm)、青(430-490 nm)、緑(490-550 nm)、黄(550-590 nm)、橙(590-640 nm)、赤(640-770 nm)として認識されます。
目に見えない光には、私たちの身近なところでいうと、日焼けのもとになる「紫外線」や、テレビのリモコンなどに使われる「赤外線」などがあります。
赤外線
まず、赤外線から見ていきましょう。
赤外線は、可視光線の赤より波長が長く(周波数が低い)、電波より波長の短い電磁波のことをいいます。波長としては、800 nm~1 mmくらいの範囲が赤外線になり、人間の目では見ることができない光です。
一般的に、赤外線の中でも可視光に近い領域を「近赤外線」、可視光から遠い領域を「遠赤外線」といいます。
熱を与えやすい振動数の多くは遠赤外線の領域にあるので、遠赤外線のことを「熱線」と呼ぶこともあります。遠赤外線ヒーターというような名前の暖房器具がありますが、これはその名の通り、遠赤外線で暖めているのです。
波長はおよそ4~1000 µmの電磁波で、電波に近い性質を持っています。
近赤外線は、波長800 nm~2500 nmの電磁波で、赤色の可視光線に近く、性質も可視光線に近い特性を持つため「見えない光」として、赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコン、生体認証の一種である静脈認証などに応用されています。
また、画像処理業界でも、近年注目を集めています。
近赤外線は、特定の物質を透過又は吸収する性質をもっているため、半導体ウエハや電子部品、食品の内部など外側からは見えない内部の状態を確認・検査することができます。
尚、画像処理業界においては、近赤外線(Near-infrared:NIR)、短波長赤外線(Short-wavelength infrared:SWIR)がよく用いられますので覚えておきましょう。
紫外線
可視光よりも波長が短い電磁波は「紫外線」と呼ばれます。波長で言うと、10 nm~400nmくらいの範囲が紫外線になります。
可視光よりもエネルギーが高く、分子の化学結合の仕方を変化させる力を持っています。そのため、紫外線を浴びると、分子が化学変化を起こすことがあります。紫外線で日焼けすることや、紫外線に殺菌作用があることなどがその例です。
太陽の光の中にも紫外線はたくさん含まれており、その中には、生物に有害な紫外線も含まれています。そのような紫外線は上空のオゾン層が吸収してくれるので、私たちのいる地表にはほとんど届いていないのです。
以上のように、可視光の外側には、赤外線と紫外線の領域が存在することが分かりました。「光」というと可視光だけでなく、赤外線や紫外線を意味することもあります。
しかしさらに外側にいくと、「光」と呼ぶことはほとんどありません。ここからは、光と呼ばない電磁波について確認していきましょう。
電波
まず、赤外線よりも波長が長い(振動数の低い、エネルギーが低い)電磁波は、すべて「電波」と呼ばれています。
電波は放送や通信に昔から使われており、私たちの日常生活には欠かせないものになっています。テレビやラジオ放送、携帯電話、電波時計の電波など、私たちの周りには、たくさんの電波が飛び交っています。
可視光よりも波長が長いので目には見えませんが、もし見ることが可能なら、どんな光景が広がっているのでしょう?
さらに、「電波」の中でも波長の長さごとに呼び方が異なります。
長波は電波時計などに、中波から超短波の範囲はラジオやテレビの放送などに、マイクロ波はデジタル放送・携帯電話・GPSシステム・電子レンジなどに使われています。
放射線(X線・γ線)
次に波長の短い方に目を向けて、紫外線の外側を見ていきましょう。この領域は一般的に「放射線」と呼ばれるようになります。
紫外線よりもさらに振動数が高く、電磁波としてのエネルギーは非常に高いので、生物を構成している分子にも甚大な影響を与えます。そのため放射線を浴びることを「被曝」といったります。
「放射線」の中も、おおまかに2つの領域に分類されています。紫外線のすぐ外側、波長 10 pm(ピコメートル)~10 nmくらいの範囲の放射線を「X線(エックス線)」と呼びます。X線は19世紀末にレントゲンが発見したもので、今でも医療などの分野ではレントゲン撮影という言葉でX線が使われています。
X線よりも波長が短くなると、「γ線(ガンマ線)」と呼ばれるようになります。電磁波の中では、最もエネルギーが高く、原子核反応によって放出されます。
X線やガンマ線は基本的には人体に有害ですが、レントゲンのような医療の分野や物質評価などの科学の分野でよく使われています。
日本には、世界最高性能の放射光を利用することができる大型の実験施設「大型放射光施設 SPring-8」(兵庫県・播磨科学公園都市内)があります。
この施設では、放射光(X線や紫外線といった光)を利用してさまざまな実験を実施しており、私たちの暮らしに身近なものが数多く開発されています。放射光を使うことで優れた構造解析ができ、その能力を活かして環境の微量元素分析、医薬品の開発や生活に身近なシャンプーの開発などに使われています。
光の速さは秒速30万km
部屋の電気のスイッチを入れると、部屋全体が一瞬で明るくなります。
では、「光の速さ(光が伝わる速さ)」はどのくらいかというと、「1秒間に約30万km」というとんでもない速さなのです。地球を1周すると約4万kmですから、光はわずか1秒で地球を7周半できることになります。
最初に光の速さの計算に成功したのは、デンマークの天文学者、オーレ・レーマー(1644年~1710年)という学者です。1676年、レーマーは木星とそのまわりの公転する衛星イオの動きをもとに、光の速さを導きました。
レーマーの計算では、光の速さは「1秒間に約22万km」というもので、現在の数字と大きく違いませんでした。
それから170年以上過ぎた1849年、フランスのフィゾーという学者が、鏡や歯車などを組み合わせた実験装置を作って光の速さを計算したところ、今度は「1秒間に約31万km」という、現在の数字にさらに近い結果が出ました。
それからも、世界中で光の速さに関するいろいろな実験や計算が行われ、1983年になってついに光の速さは「1秒間に29万9792.458km」と決められました。
このようにして、17世紀から20世紀にかけて光の速さは有限であることが実証されたのです。
この光の速さのことを、速さを意味するラテン語のケレリタス(celeritas)の頭文字を使って、ⅽで表すことになりました。